『〈人類の会話〉をデザインする』朱喜哲× 渡邉康太郎トークイベント

3月31日(日)、青山ブックセンターで開催された“『人類の会話のための哲学』刊行記念「〈人類の会話〉をデザインする」朱喜哲× 渡邉康太郎トークイベント”に出かけてきた。

朱喜哲著『人類の会話のための哲学』と渡邉康太郎著『コンテクストデザイン』


朱喜哲氏はプラグマティズム言語哲学を専門としながらリチャード・ローティを主に研究。大阪大学教員というアカデミズムの世界に身を置きながら、同時に電通マーケティング・アナリストおよびプランナーとしてデータ解析に携わるなどビジネスにも活動の場を持つユニークな存在。対する渡邉康太郎氏は東北芸術工科大学教員のほか、コンテクストデザイナーとして「最新デジタル機器のUI設計から企業のブランディングまで幅広く(Wiki)」手がけている。


今回のトークイベントで興味深かったのは、前回アーカイブで視聴した朱喜哲氏と池田喬氏の対談ではローティ&ハイデガーという形でアカデミズム的哲学のボキャブラリーをめぐるトークだったのに対し、コミュニケーションの現場におけるボキャブラリーということがテーマになり、そこから派生してマーケティングを含むビジネスや企業戦略的なところにも話題がふくらんでいったこと。ここは、朱氏が渡邊氏というビジネス領域でのクリエイティブな資質を持った対談者を得たことが多分に強いファクターになっていると感じた。


n=1から派生して、渡邉氏からは送り手と受け手の、認識の「ズレ」。n=1における「ズレ」があるからこそそこにコミュニケーションが生まれていくという主張。
朱氏はそれに対し、ファイナルボキャブラリーがアップデートされていくということが提示され、クリエイティブの可能性がそこから生成されていくという主張の絡み合いが面白かった。


特に企業理念や目的(いわゆるパーパス)はあったとしても、そこから外れていくような冗長性がないと企業としての弱さが生まれ、結局うまくいかないのではないか。パーパス→ファイナルボキャブラリーを更新していくような(運動/展開)が必要となると朱氏は主張している。


また、マーケティングにおける統計分析という話も出たのだが、そこでは伝統的なマーケティング統計手法:売上や滞在時間等の数値的分析だけではない部分、例えば売り手と買い手の幸福度をいかに数値的に掬い上げてビジネスとして成立させていくかといった話は、過去のマーケティング手法における限界を超えるような意見で興味深かった。
以前読んだジリアン・テット著「ANTHRO VISION」では社会人類学文化人類学の手法からマーケティングを問い直す必要性を説いていたし、田中洋編著の「ブランド戦略ケースブック2.0」では言語学者チョムスキー、経済学者のステグリッツ、哲学者の柄谷行人などの知見を元にブランド戦略を再構築するヒントが語られていた。


マーケティングやブランド戦略などは変化を続ける現実世界そのものを取り込む必要性からそのあたりの学際的なアプローチが今後ますますポイントになっていくと思うけれど、今回のトークイベントで語られていたn=1を前提にした認識のズレ、というところはコミュニケーションを考えていく&実践していく上で重要な概念となっていくはずなので、これからも継続して関心を持っていきたい。


とはいえ、おふた方の高速で展開されるトークセッションはかなりスリリングで、聴いているこちらもいつもより多めにアドレナリンが分泌されるような高揚感を覚えた。

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久しぶりの青山ブックセンター